【Vol15】変化・・?

午前中、観光事務所に行く。珍しく上司がいた。

しかし最近、僕が所長やJICAに対し、上司やカウンターパートを変えてくれと言ったりしていたので、かなり警戒している様子。

携帯ゲームをしている職員たち(だいたい若い女の子)に耳打ちして、出て行った。

そしたら彼女たちは急にゲームをやめ、観光についての本を読みだした。

「今日はミナミがいるから仕事(しているフリ)をしなさい」と言ったのだろう。

もはやおままごとである。

その後、戻ってきたカウンターパートと話をした。

「あれをやれ、これをやれ」と言ってくるが、もう私は一人で仕事するつもりはない。私は、事務所が主体的に行う仕事を、手伝いに来たのだ。新しい仕事の指示を出すのではなく、まず事務所が、あなたがしている仕事を教えてくれ。

そんなふうにプリプリしていたら、怒って出て行ってしまった。

気まずい雰囲気が流れる職場。しばらくすると、ちょっとした変化が訪れた。

職員(ハーさん、若い女性)が出かけるというので、何となく付いていった。バイクで3分ほどの、古城。ここはドンラム村と同じく事務所の管轄で、観光客が訪れる。外はとても暑いが、城の中庭は風が通り抜けて、気持ちがいい。

ふと、ハーさんが話しかけてくる。

「私たちは、ここに1日何度か来て、展示物をチェックするの」

「観光客が多いときは、ガイドもする。最近は暑いから、ほとんど来ないけど」

「ミナミ。ミナミが成果を出しているのはわかるけど、あなたが普段、何をしているのか、見えにくい。私は過去に2人のボランティアと仕事をしていたからわかるけど、彼らは報告書を私に直してもらったりして、日々何をしているのかわかりやすかった」

ふだんゲームをしているときとは違う、真剣な眼差し。

これまで私は、成果を出せばいいだろうと、事務所で人間関係を構築する努力をしたり、自分がどこで何をしているのかを、積極的に知らせたりということがなかった。それを指摘されると「おれは成果を出している!お前らは事務所でゲームしているだけじゃないか」とプリプリしていた。向こうからしてみれば「成果を出せば好き勝手やってもいいのか」と思うかもしれない。

これまでの日本での仕事を思い出すと、同じくそういう部分はあった。ただ、明確な職務違反があったわけでもないし、やはり最低限の成果を出している以上、向こうから注意しにくい部分なのだろう。簡単に言うと、みんな大目に見てくれていたのだ。

恐らく、そういう部分は自分の欠点なのだし、そう思われたりしてイライラするのは、結果的に損だ。

とまあ、気持ちを切り替えた。

午後からさっそく、1人でやるつもりだった地酒の紹介の仕事を、トゥイさん(カウンターパート)と共に行う。

これは、特産品である地酒をハノイの小売店さんに紹介したら、ぜひ仕入れたいということだったので、その話をしにきたのだ。

さっそく生産者も話に乗ってくれた。一大消費地であるハノイで継続的に売れれば、安定的な収入につながる。

その生産者は方言が強いため会話がなかなかできず、小売店からオーダーを受けていたものの、何となく腰が重くなってしまっていて、なかなか本格的な交渉を行えずにいた。それを、カウンターパートがわかりやすいベトナム語に通訳してくれることにより、交渉がスムーズに進んだ。結果的に、自分がどこでどんな仕事をしているのか、同僚にもわかってもらえた。

正直、おままごとのような職場に対し、爆発してしまうくらいにイライラすることもある。こんなところにいて、何の意味があるのだろうって、毎日思っている。でも、ふいにこの言葉を思い出した。

「夢ばかり見て後で現実に打ちのめされるより、現実を見据え、現実を徐々に良くしていくことを考えるべきだろう」

イビチャ・オシムさんの言葉だ。

こんな職場がいいな、と思うのは夢。いまある職場は、現実。

現実はここにある。photo_01.jpg