【vol23】コミュニケーション

日本は3連休だそうですね。梅雨が明けて、暑いのかな。

さて、先日ハノイに行ったとき、先輩隊員とタクシーに同乗して、村に帰った。

彼は、ドンラム村よりさらに10キロほど西に向かったバビ(牛乳がおいしい高原だ)というところで、障害児センターの先生をしている。

お互いハノイに上がったタイミングが合えばこうして一緒に帰り、タクシー代を浮かすのだが、同乗している1時間強の時間は、だいたいずっと会話をしている。今回、その会話がなかなかおもしろかった。

私「同僚が働かないし、アイディアも出さずにすぐあきらめる。そうすると一人で仕事せざるをえず、イライラしてしまう」

先輩「同僚をうまく働かせる工夫をしてみたら?例えばゲーム形式にしてみたり」

私「おれは同僚を教育しに来たわけではないし、相手の目線に落として仕事をしたら、スピードが落ちる。一人でやった方が早い」

先輩「僕はあまりスピードとか結果にはこだわらないのかも。やっぱり教員だし、ビジネスマンじゃないんだな」

・・・という話をしばらくしていたのだが、話しているうちに、面白いことに気付いた。

私は、常に目に見える結果を、なるべく早く出すことにこだわる。当然、結果を出すために、仕事相手(同僚や取引先)にも高い水準を求める。それができないと、イライラする。「観光事務所の職員が英語を話せないなんて、ありえない」という発想だ。

一方、先輩は、目に見える結果を出すことにこだわらない。ましてやスピードは重視しない。むしろ仕事相手(同僚や生徒)に気付かせるように思考錯誤して、少しずつ成長させていく。「生徒が先生の思った通り動かないなんて、当たり前」という発想だ。

どうだろう。お互い、仕事相手に対する見方が、全然違うことに気付かないだろうか。

いいかえると、先輩はまだ若いのに、「うまく動かない相手に対してどう対応するか」という、思考回路が「障害児教育」という専門のもと、身についている。一方私は、「こんなこと、ありえないだろう!」とプリプリするばかりで、「全員が全力で頑張り、結果を出す」という、ビジネスマンの思考回路しか身についていない。

裏返すと、先輩は目に見える結果を出すことが苦手で、私は得意なのかもしれない。

例えを出してみよう。私は野球選手のイチローが好きなのだが、彼は一切、自分に妥協を許さず、仕事相手にも妥協を許さない。だからチームが弱かったマリナーズ時代、彼は浮いていたという話を耳にする。「彼はすごいけど、自分の個人成績しか興味がない」と陰口を叩かれていたこともあるらしい。彼には、チームメートが自分の技術に興味を持ってもらい、真似してみたくなるような仕掛けをする、ということはできないし、しないだろう。もちろん、モチベーションの高いチームメイトが聞きにくれば教えるが「モチベーションの低い相手の力をどう引き出すか」ということは、彼の発想の外にある。それは同僚だけでなく、取材しにくる記者相手でも同様で、つまらない質問には露骨にダメ出しをするし、基本的に厳しい。その発想のもとにあるものは、「お互いプロフェッショナルなのだから」「高いレベルで切磋琢磨したい」という強烈な自負に他ならない。

イチローを例えに出すのはおごがましいが、少なくとも、イチローの姿勢に私は共感する。

それでも、特に途上国においては、その姿勢はあまりうまいやり方とは言えないだろう。

できなくて当たり前、だからボランティアが来る・・。

職員の目が輝き、やる気に満ち溢れ、でも技術だけはない。そんな職場だと思っていたら、そもそもやる気がなかった。

そんなとき、どうするか。一人で突っ走って結果を出すか、みんなを啓蒙していくやり方を取るか。

どちらかに振れ過ぎてもいけないだろう。

でも、これまでの私は、一人で突っ走って結果を出す方を選んでいて、それは何よりも自分にとって、相当なストレスになっていた。

もう30代なのだから、結果を出しつつ、チームをコントロールする思考を身につけてもいいころだろう。

だからどうしよう、とまではアイディアが固まっていない。

ただ、自分の思考の特徴を知ることができてよかった。

なんで会話していてそんなことに気づけたかと言うと、先輩と私は、バックボーンが全く異なるからだ。そんな2人がしっかり話をすると、相互作用で、似た人間が話をするよりも、多くのことに気付くことができる。バックボーンが似ていると、愚痴の言い合い、お互いの共感だけになってしまい、「ベトナムはダメだよね」という結論にしかならないことも多い。それはそれで楽だし、必要だと思うけど、「自分の見方を変えれば、うまくいくかも!?」という発想には、なかなかならない。

私は会社員だったが、そうすると、会社員の友人とばかり仲良くなっていた。それは医療系でも、教育系でも、状況は同じかもしれない。やっぱりどの世界でも、似た者同士が友人になりやすいのだろう。

しかし協力隊員は、いろいろなバックボーンを持った人が参加し、いっしょくたになる。違うバックボーンを持った人間同士が話すと、ハッと気づくことが多い。自分がこれまで関わってこなかった種類の同世代の友人がたくさんできる、これは協力隊の大きなメリットだと思う。