【vol35】外国語でケンカをするな
村上春樹がおもしろいことを書いていた。
「異国にいるとき、外国語でケンカするな。まずうまくいかない」という。
あー、なるほどなと思った。
たまにハッとさせられるやり取りがあります。
青年海外協力隊員がまずブチ当たる壁の1つに、配属先の勤務態度があげられる。
日々の仕事はJICAとではなく、配属先と行うからだ。
配属先の勤務態度というのは、日本基準に照らせば、基本的にひどいものである。
私の職場である、ドンラム村遺跡保存管理事務所もその例外ではない。
仕事中にFacebookやyou tubeは当たり前、マフラーを編んでいていることすらある。
それでいて、所長やJICA関係者が来ると働くフリをする。高校生が、授業中にマンガを読むのとまるで変わらない。
これは世界中の協力隊員が抱えている悩みだろう。
我々は、個人差はあれど、途上国の抱えている悩みを解決するためにボランティアで来ている。
ところが来てみたら、住民の抱えている悩みを解決しようとしている当の行政担当者たちが、動いていないのだ。
国際協力の世界では珍しくないのかもしれないが、民間の常識では「投資に値しない」と評価され、もっと違うところに投資=援助が行くだろう。やる気のない組織に日本の税金を使って援助することが現地や、回り回って日本にとっていいことなのか、はなはだ疑問に思うが、ここでは深入りしない。
問題はそこから。
そんな状況に対して、どう立ち向かっていくか。
JICAの回答としてはいくつかある。
「しっかり仕事をしている自分の背中を見せる」
「キーパーソンとなる人を探す」
といったものが代表的だが、その前提として、冒頭にあげた言葉を意識しておくのは、とてもいいことのように思う。
私も当初は彼らを変えられるように努力していたのだが、その過程でつい声を荒げてしまうこともあった。
その繰り返しでお互いの感情が悪化してしまうこともしばしばで、世界中を見渡すと、任期短縮を余儀なくされる隊員も少なくない。
この言葉を知ってから、私はベトナム語でケンカすることは一切やめた。
いま、私は同僚に対しては「ただニコニコしているだけ」で、ほとんど一緒に行動していない。同僚にアプローチをすることで感情が揺れ動き、自分の精神のバランスが崩れてしまうことが、いまは怖い。過去と他人は変えられないし、変えようとするとベトナム語で火種になるような言葉を言わざるを得ない。だから私は基本的に、やる気のある村人と一緒に仕事をしている。
農業をしている村人。ちゃんと生き、働いている。
Q「苦労したことは何ですか?」
A「同僚の勤務態度です。みんな働かないので、最初は言い争いばかりしていました」
Q「どうやってそれを解決しましたか?」
A「なるべく同僚と関わらないように意識して仕事しました。なぜなら彼らの勤務態度に接すると改善したくなってしまうからで、その過程で自分の精神がきつくなってしまうこともしばしばだったからです。ただでさえ厳しい環境の中で、現地語を使って彼らを変えるには、私は実力不足でした」
・・・・・クロスロード(JICAの広報誌。協力隊員の思考錯誤のケーススタディが載っている)には決して載らないであろう事例。
でも、かなりの部分でリアルだと思う。
私は恐らく、同僚に何も残すことはできない。でも、村人には残せるだろう。
隊員の活動としては、それで十分だと思う。
↓もちろん配属先とうまくやれるに越したことはないのですけどね。なかなか難しいです。たくさんの方に読んでいただけると励みになるので、ぜひクリックをお願いします。