【Vol96】不動産デベロッパー仲間との食事会

先日、私が勤めていた不動産デベロッパー業界で働いている人たちと、ハノイで食事をする機会がありました。不動産デベロッパーといっても読者のみなさんにはあまり馴染みがないかもしれませんが、ひとことで言うと、商業施設(六本木ヒルズとか)やマンションを作り、売ったり貸したりして利益を得る、そんなビジネスをしている業界です。社員数は少なく、例えば最大手の三井不動産でも、新卒入社は20人程度だったりします。また、大規模マンションプロジェクトのときなどに、ジョイントベンチャーといって、数社で持ち分を分けあってリスクヘッジをすることもあるため、ある物件ではライバル、ある物件では仲間、といったことがごく普通に起こります。そんなこともあってヨコのつながりが強い業界です。

退職して時間が経っていることもあり、業界の動向にはうとくなっていますが、それでも話していて、懐かしい気分になりました。私は7年ほど勤めましたが、デベロッパー業界のいいところや悪いところを、この機会にまとめてみます。

まずは良いところですが、商人としての基礎基本を学べることにあります。基礎基本というのは、原料(土地)を仕入れて、加工(建築)した上で、流通(販売、賃貸)させ、差額を利益として得る仕事です。これは大昔からあるビジネスであり、マーケティングや営業、広報、法務、経理などの専門職は、すべてそこから細分化した職種です。デベロッパー社員は、その基礎基本をひとりひとりが理解し、ビジネスを実行できる能力が備わっています。

この能力が備わっていると、何ができるのか。

収支を組むことができるのです。収支とは、(原価+加工代)-売上=利益の数式であり、通常はエクセルで管理します。これはどんな職種にも応用できるものであり、この知識を叩きこまれたことは、私にとって財産になっています。他の業界で、例えば営業の専門家になったとしても、商品の値付け根拠や利益予想などができないと、プロジェクトや、ひいては会社の全体像を見渡すことができません。

私の活動にとっても、ただやみくもに村人の収入向上につなげるのではなく、収支をはじいた上で、一定の利益を出せるような設定になるよう、考えて指導しています。売上を得るためには商圏を広げることが必要、だったら村ではなくハノイで売る・・簡単なロジックです。

逆にデベロッパー業界の悪いところ。私は「対応する法律の多さ」を挙げます。近年、コンプライアンスが厳しくなり、ちょっとした法令違反も許されなくなりました。加えて、法令そのものもどんどん多くなっています。例えば、不動産の取引を行う際には重要事項説明書という、その不動産の説明書を売主から買主に交付する義務があります。その重要事項説明書が、近年、どんどん厚くなっています。震災が起こったら、どんな地盤かを説明する義務が生まれました。マネーロンダリングが問題になれば、買主の本人確認義務が、売主に義務付けられます。こういったことが積み重なり、説明義務がますます増えます。一方、説明義務の条項が少なくなることはまずありません。

一般の消費者保護のためですから、基本的にはいいことです。しかし、売主・・現場のサラリーマンの負担は増します。いくら手間がかかるといっても売値には簡単に転嫁できないから、結局はどこかで無理が出てきます。大手デベロッパーは残業代が出るからまだマシでしょうが、増え続ける消費者保護のための条項に対応するのは、負担です。コンプライアンスがこれだけ叫ばれている世の中にも関わらず、労働法関連だけはいまだに法令違反がまかり通っているのは、労働者にとって酷な話です。

日本は、消費者が手厚く保護されています。だから、商品の質も高く、特に安全面では支持されています。ただし、以前の話にも関連しますが、手厚い保護を求める一方、金払いが必ずしもよくないのが、日本の消費者の特徴です。商品に対して世界一厳しい基準を求めるならば、金払いも世界一であるべきです。日本の国内市場が世界から相手にされなくなっているのは、そんな理由もあると思います。

さて、そんな日本市場だけではやっていけないと、どの業界も海外に飛び出しています。しかし、不動産というのは、国にとって大切なモノです。だから、どこの国も、そうは簡単に外資は参入できない仕組みになっています。しかも動くお金が多いから、ますます外資がリスクを取っての進出はしにくい。

そんな理由から、デベロッパーは魅力のない国内市場で勝負せざるを得ません。では、デベに勤めることは、社員個人にとって幸せな道なのでしょうか?

私の結論としては、ビジネスマンとして基礎力を身につけるのにはオススメ。しかし、将来予測は暗く、個人としては消耗し、健康を害す可能性が大きい。だから、新卒で入るのならば、スキルを吸収するだけして、早い時期に違う業界に転職することを考えるべきです。もっとも、給料がよかったり、入社するのが難しかったりするので、転職する人はあまり見られない業界です。

新聞記者や学者といった職種の人と話していると、自分の給料の根拠がよくわかっていない人によく出会います。それはひいては会社の売上や利益の仕組みがわからずに仕事に没頭していることになり、よくいえば専門的、悪く言えば視野が狭くなってしまいます。新聞記者がいかにネタを引っ張ってこれても、それを現金化する手段を知らなければ、所属している社に依存するしかありませんよね。それでは経済的自立はできません。

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